Outline

開催概要

会期:
[前期]2022年7月11日(月)–2022年8月14日(日)
[後期]2022年9月5日(月)–2022年10月2日(日)
会期時間:
12:00–20:00(土・日曜日、祝日は10:00 - 17:00)
休館日:
水曜日
入館料:
無料
会場:
展示室1・2・4・5、アトリウム1・2 他
主催:
武蔵野美術大学 美術館・図書館
監修:
五十嵐久枝(武蔵野美術大学 造形学部空間演出デザイン学科教授)
寺田尚樹(建築家・デザイナー/株式会社インターオフィス代表取締役社長)
企画協力:
株式会社インターオフィス
協力:
武蔵野美術⼤学 空間演出デザイン学科研究室
武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科研究室
協賛:
アサダメッシュ株式会社
株式会社モデュレックス
特別協力:
島崎信(武蔵野美術大学 名誉教授)
会場構成:
IGARASHI DESIGN STUDIO

みどころ

当館は1967年の開館以来、コレクションの柱の一つとして近代椅子を収集してきました。現在所蔵数は400脚を超え国内有数の規模を誇ります。本展は、この中から精選した約250脚の近代椅子を当館の1階2階の全フロアに展開し、コレクションの全容を紹介するとともに、近代椅子デザイン史を俯瞰する、当館にとって初めての試みとなります。会場内に並ぶ一脚一脚の椅子には、素材や技術をはじめ時代、地域、思想の背景があり、これらの椅子を座り比べることで、それぞれの椅子の特長と椅子デザインの変遷を体感する機会となることでしょう。

座って比べる名作椅子
わが国の美術館において椅子がまだ収集対象として認識されていなかった1960年代、本学工芸工業デザイン専攻の初代主任教授であった豊口克平(1905〜1991)をはじめとした教員陣による「プロダクト・デザインを学ぶ者にとって椅子は格好の教材である」との提言が端緒となり、当館の椅子コレクションはスタートしました。以来、本学では実際にコレクションに座ることで椅子の機能・座り心地、デザイン等を学ぶ講義が開講されています。当館のこうした収集、利活用方針を反映し、本展においても、展示会場でより多くの椅子に座り、五感で椅子を楽しんでいただきます。

メディアとしての椅子
ある椅子が名作と評される根拠は、新開発の技術、その土地固有の素材、その時代の社会情勢、芸術潮流やデザイン運動との関係、さらにはデザイナーや建築家の特性を色濃く反映したフォルム等、多岐にわかれます。またある椅子が時代を象徴する作品や広告に登場することで、長く人々の記憶に残ることもあります。これらのことが示す通り、名作と呼ばれる椅子は単なる家具に留まらず、時として様々な情報を帯びた「メディア」となります。そこで本展の特設サイトと会場内映像では、メディアとしての名作椅子に着目し、名作椅子のメディア機能についても考察します。

デザイン史を体感
本展ではデザインの歴史的変遷を軸に据え、近代以前から現代に至るまでの椅子を全10章に分け展覧します。近代椅子デザインの源流となった椅子に始まり、20世紀を中心に各時代、各地域、各デザイン潮流のもとで産み出された名作椅子群、そしてそれらの名作から様々な影響を受け、今なお製造されている椅子までを通覧することで、近代デザイン史を巡ります。

展示構成

凡例:名称/デザイナー/製造年[初号]
  • 1

    近代椅子デザインの源流

    明式家具、ウィンザーチェア、シェーカーチェアと、それらから色濃く影響を受けたハンス・ウェグナーやボーエ・モーエンセン、ジョージ・ナカシマ等による椅子。現在名作と評されている椅子群のルーツを辿っていくと、その多くが近代以前の椅子に行きつきます。本展の冒頭にて「椅子デザイン史は、リ・デザインの歴史」であることを体感いただきます。

    圏椅/不詳/2002[1500年代]
    チャイニーズチェア/ハンス・ウェグナー/1992[1943]
  • 2

    トーネットとデザイン運動

    フォルムだけでなく生産や流通の効率まで考慮して製造されたトーネットの《No.14》は、産業革命を象徴する製品と言われています。その産業革命により機械化、工業化が進んだ19世紀末から20世紀前半の欧州では、変革する社会に適したデザインを模索すべく、様々なデザイン運動が展開され、その思想を色濃く映した椅子が数多く誕生しました。芸術と産業の関係性を社会全体で探し求めた時代を考えます。

    ウィーンチェア/ゲブルダー・トーネット/1970[1870]
    ジグザグ/ヘリト・トーマス・リートフェルト/1975[1932]
  • 3

    国際様式と家具デザイン

    1920年代から40年代にかけ、建築の領域では装飾や歴史性を廃し万国共通の様式や工法を是とする「国際様式」が台頭します。建築家自身が建物内のインテリアも全面的に担うことが多かったこの時代に活躍したル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエ、アルヴァ・アアルトなど、国際様式を代表する建築家達による名作椅子を通覧します。

    MR10/ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ/1971[1927]
    LC2/ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアン/1988[1928]
  • 4

    ミッドセンチュリーと大衆消費社会

    20世紀中頃アメリカでは、チャールズ・イームズやエーロ・サーリネンらが第二次世界大戦を契機に開発、発展した新技術や新素材を取り入れ、次々と新しいデザインを世に送り出します。そしてこれらのデザインは、二つの大戦を経て充実一途にあったアメリカの大衆消費社会の象徴的存在となりました。新技術と秀でた才能と豊かな市場が整うことで実現したミッドセンチュリーの世界を堪能いただきます。

    DCW/チャールズ・イームズ/1998[1946]
    ペデスタルチェア/エーロ・サーリネン/1971[1956]
  • 5

    スカンジナビアンモダン:手仕事と機能性の共存

    豊かな自然素材と丁寧な手仕事を重んじる姿勢から産み出される北欧の製品は、シンプルでありながらも温かみをもたらします。これに加え、北欧では古くよりその製品を使う人の視点、いわば機能性を重視する伝統がありました。20世紀半ばにアルネ・ヤコブセン、フィン・ユール、ハンス・ウェグナー、ポール・ケアホルムをはじめとする優れた才能により産み出され、今なお世界中から支持されるスカンジナビアンモダンの特長をご覧いただきます。

    スワンチェア/アルネ・ヤコブセン/1999 [1958]
    No.45/フィン・ユール/1945[1945]
  • 6

    イタリアンモダン

    アメリカにおける強い経済力や、北欧における自然素材の豊かさには及ばなくとも、20世紀中旬のイタリアには自由闊達で明るい発想を受け容れる気風と、それを具現化できるメーカーと職人、デザイナーの三者による密接な関係性がありました。時に機能性が後回しになることがあったとしても、デザイナーによるアイデアが最優先されることで産み出されたオリジナリティ溢れる製品をお楽しみください。

    メッツァドロ/アッキーレ・カスティリオーニ、ピエル=ジャコモ・カスティリオーニ/ 1998 [1970]
    コロンボチェア/ジョエ・コロンボ/1999[1968]
  • 7

    ポストモダンと倉俣史朗

    1960年代後半から、建築をはじめ文学や哲学など様々な分野において、19世紀以降に構築された近代的な文化や価値観に対して批判的な態度が大きなうねりを見せます。これに呼応するようにデザイン界においても「スタジオ・アルキミア」や「メンフィス」が登場し、1980年代は一大旋風を巻き起こします。本パートではこのメンフィスにも参加し、日本のポストモダンを牽引した倉俣史朗による椅子も7脚展示します。

    Miss Blanche/倉俣史朗/2004頃[1988]
    ウインク/喜多俊之/1998[1980]
  • 8

    日本の椅子※前期のみ展示

    古来より床座の習慣があり、住空間において椅子が必要とされなかった日本では、欧米に比べ椅子を利用する歴史も長くなく、また椅子デザインにとって和室との兼ね合いは不可避でありました。固有の事情により独自の発展と展開を遂げた日本の椅子デザインを見つめ直します。

    ラウンジチェア/剣持勇/1972[1960]
    低座椅子/坂倉準三建築研究所(担当:長大作)/1972[1960]
  • 9

    フォールディングとロッキング

    「腰掛ける」という基本機能に「折りたたむことができる」という機能が加わったフォールディングチェアは、いわば複合機能を有する製品です。椅子として使用する際のフォルムや強度は当然のことながら、折り畳まれた際のフォルム、運び易さ、重量、さらには折り畳み機構も条件に加わります。実際に折り畳み、広げ、座っていただきながら、より厳しい要件を満たし製造されたフォールディングチェアの秀作群を体感いただきます。

    BRONX 1010/川上元美/不明[1992]
    ウッドプロペラスツール/コーレ・クリント/1992[1933]
  • 10

    みんなの椅子※後期のみ展示

    椅子のデザインといえば、デザイナーばかりが注目されがちですが、本来一脚の椅子の背後には、デザイナーはもちろんのこと、製造、営業、広報、販売、流通等、様々な役割を果たす人々が存在します。そこで本展の最終章では、国内家具メーカー等にて椅子づくりに携わる本学出身者と、その出身者達が実際に製造に携わっている椅子を紹介します。

    MAGEKKO(まげっこ)/五十嵐久枝/2019
    SHINRA (森羅)/三沢厚彦/2021